お墓に関する法律知識
墓じまい
近年は、核家族化や高齢化の影響などで遠方のためお墓の管理が行き届かない、あるいは夫婦間に子供がいないなどの理由で墓石を撤去して墓所を整理するという、いわゆる墓じまいが増えてきています。その墓じまいをするにあたって埋葬または埋蔵してある遺骨を取り出さなければなりませんが、取り出した遺骨をどのように扱うかによって墓地、埋葬等に関する法律(墓埋法)の手続きや墓地や霊園の規則の確認が必要になってきます。
取り出した遺骨の全部を新たな他の墓地や納骨堂に納める、お墓の引っ越しは改葬と呼ばれます。この改葬の定義は、埋葬した死体を他の墳墓に移し、又は埋蔵し、若しくは収蔵した焼骨を、他の墳墓又は納骨堂に移すことをいうと規定されています。埋葬したか埋蔵または収蔵した遺骨について、埋葬の場合ですと土中を掘り起こすか、焼骨にして埋蔵または収蔵した場合ですと取り出してから移動ということになります。
そもそも、墓埋法が制定されたのが昭和23年ですから、昭和の初めころは遺体を土中に埋葬する方法と火葬して骨壺に納めて墳墓に埋蔵する方法があり、地域によって差はありますが、埋葬と火葬が半々の割合でした。しかし、しだいに遺体を土中に埋葬する方法は用地の問題や公衆衛生の面での問題があり火葬が主流になっています。
そして、現在でも人が亡くなると届出義務者が死亡の事実を知った日から7日以内に死亡診断書を添えて市町村の窓口に提出し、そこで一緒に火葬または埋葬許可申請書を提出して許可証を発行してもらうという流れになっています。
そしてその改葬をするには墓埋法には、埋葬、火葬又は改葬を行おうとする者は、厚生労働省令で定めるところにより、市町村長の許可を受けなければならないと規定があり、改葬をする場合にも市町村長の許可が必要になります。
次に改葬を行う流れについてですが、遺骨の所有者がつまり祭祀承継者がまたはその同意を得た者からの申請をしますが、改葬許可申請書には改葬先に場所を記載する必要があるため、遺骨を移す先のお墓を用意し、移す先の墓地や霊園の受入証明書を取得しておく必要があります。この受入証明書が改葬許可申請の添付書類になっていることが通常だからです。
それと同時にそれまでお世話になった遺骨を取り出す墓地の管理者には改葬する旨を伝え、離檀料等の確認をし同意を得て、改葬許可申請書の添付書類である墓地または納骨堂の管理者が作成した埋葬もしくは埋蔵又は収蔵の事実を証する書面を取得します。また、墓石の撤去や墓地の区画整理のための石材店等の業者に工事費用の見積もりを取ることも必要になります。
遺骨の全部を他の墓地に移すことが改葬ですが、遺骨の一部を他の墳墓又は納骨堂に移すことは改葬にあたらず分骨といいます。そして分骨を行うには焼骨を埋蔵又は収蔵していた墓地又は納骨堂の管理者から埋蔵又は収蔵に関する証明書を発行してもらい、移す先の墓地又は納骨堂の管理者に提出することになります。
また、火葬をした後まだ埋蔵又は収蔵していない遺骨を分けて別々に埋蔵又は収蔵することも分骨にあたります。こちらは火葬の申請の際、火葬場の管理者から分骨証明書の発行を受けることになり、その分骨証明書を分骨先の墓地の管理者に提出することになります。
その他、火葬後の遺骨の全部又は一部を墓地や納骨堂に埋蔵又は収蔵せずに自宅などで保管することを手元供養といい、こちらは特別な手続きは必要ありません。ただ、後々自宅の庭に墓を建て遺骨を埋葬するようなことは、墓埋法に、焼骨の埋蔵は、墓地以外の区域に、これを行ってはならないと規定がありますので、都道府県知事の許可がなければならないため難しいものと思われます。
散骨
お墓の後継者がいなくなる、あるいは後継者自らの希望で散骨をする、そのためいずれ無縁墓になるためにお墓を処分したり等で散骨といった当初墓埋法が想定していなっかた新しい葬送の方法が増えてきています。
散骨とは焼骨をお墓に埋蔵又は収蔵するのではなく、海や山に焼骨を粉砕し撒く方法になりますが、墓埋法では埋葬又は焼骨の埋蔵は、墓地以外の区域に、これを行ってはならない、と定められており、埋蔵についての定義は墓埋法上規定されていませんが、ここにいう焼骨の埋蔵とは焼骨を土中に葬ることと解されていますので、焼骨を埋蔵するには墓地以外の区域で行ってはならないという解釈になります。
しかし、散骨がこの規定に直ちに抵触するものではないとの厚生労働省の見解があります。つまり、直ちに抵触はしませんが公衆衛生上の問題が生じるおそれや国民の社会的感情を損なうような方法で行われる場合には規制の対象になりますということです。
それゆえ、法律上問題がないからといって個人が自由に行なっていると思わぬ問題が生じかねません。自治体によっては原則、散骨を禁止しているところもあり、相当な方法及び場所には留意する必要があり、たとえば遺骨は人骨と外観上分からなくなるまで粉砕し、海に撒く場合には専門の業者に依頼するといった人々の宗教的感情には十分配慮しなければならないことが必要になってきます。
また、刑法190条との関係もありますが、刑法190条の規定には、死体、遺骨、遺髪又は棺に納めてある物を損壊し、遺棄し、又は領得した者は、3年以下の懲役に処するとした死体損壊等罪が定められており、散骨が遺骨の遺棄に該当するかの問題ですが、この死体損壊等罪の保護法益が国民一般の宗教的感情や健全な宗教的風俗にあるとされていますので、死者を弔う目的で節度をもって相当の方法で行われる場合には同罪には該当しないとの法務省の見解が一般的になっています。
次に、すでに埋蔵されてある遺骨を取り出して散骨する場合ですが、こちらは先にも触れましたように、改葬が埋葬した死体を他の墳墓に移し、又は埋蔵し、もしくは収蔵した焼骨を、他の墳墓又は納骨堂に移すことですので、散骨のために遺骨を取り出す行為は他の墳墓又は納骨堂に移すことに該当しないため改葬に当たりません。
また遺骨の全部ではなく一部をお墓から取り出して他の墳墓又は納骨堂に移すことは改葬ではなく墓埋法施行規則5条にある分骨にあたり、分骨手続きが必要でした。こちらも散骨のために遺骨の一部を取り出すのであれば分骨に該当しないため法律上の手続きは不要ということになります。ただ、改葬や分骨いずれの場合であっても、遺骨を取り出すこと自体が寺院等との関わりがありますので、墓地使用規則の確認や墓地管理者の承諾は必要かと思われます。